副会長 法学研究科長・法学部長 洲崎 博史

洲崎博史副会長

 有信会会員の皆様には、平素より法学研究科・法学部へのご支援をいただき、心よりの感謝を申し上げます。私の京都大学大学院法学研究科長・法学部長としての任期、したがって、有信会副会長としての任期も残り半年となりましたが、有信会活動を充実したものとするため努力を尽くす所存でございますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 以下では、皆様に、京都大学大学院法学研究科・法学部をめぐる最近の動きやわれわれの取組について報告させていただきます。 まず第一に、京都大学法学部・法科大学院の双方に関わることですが、法曹養成期間の短縮に向けた全国的な議論にどのように対応するかという問題があります。わが国における法科大学院制度のあり方を検討する中央教育審議会法科大学院等特別委員会では、昨年来、法科大学院を通じた現在の法曹養成プロセスは時間がかかりすぎ、それが法科大学院志望者の減少の一因になっているのではないかとの問題意識から、法学部から法科大学院への進学者については、法学部に早期卒業制度(通常の4 年ではなく、3 年で卒業させる制度)を広く導入したうえで、法学部3 年+法科大学院(既修者枠)2年の計5年で法曹養成を行うという枠組み(いわゆる「3+2」)について精力的に検討を行っています。わが法科大学院の15 年近い歴史を振り返ってみても、わが法科大学院でのきめ細かな、しかし厳しい教育が優れた法曹の養成に多大な貢献をしてきたということについては胸を張って申し上げることができます。しかし、優秀な法曹志望者にとっては、大学に入学してから弁護士登録をするまで8 年近くを要する(法学部4年、法科大学院2年、司法試験+司法修習2 年弱)という現在の仕組みは、旧司法試験時代と比較して時間と費用の点で大きな負担となり、このことが学生らを法科大学院ではなく司法試験予備試験に向かわせる原因になっているということも否定できません。

 わが法科大学院では、平成28年度入学者選抜から、優秀な法学部学生について法曹養成期間を実質的に短縮させるため、いわゆる「3 年次飛び入学制度」を導入して、法学部で3 年間しか教育を受けていない者についても特別枠での入学試験を行うこととしました。この入学試験を経た入学者は徐々に増えています(既修者枠125 名中、28年度入試は8名、29年度入試は13名、30年度入試は19名)。ただし、京都大学ではそもそも全学的に学部の早期卒業制度を有していないため、どれほど優秀な法学部生であっても3年間で京都大学を卒業することはできません。京大法学部生が、上記の「3年次飛び入学制度」を通じてわが法科大学院に進むためには、法学部を3回生末で中途退学する必要があります。現にこのルートで法科大学院に入学する優秀な京大法学部生も毎年数名いますが(上記各年度の入学者はそれぞれ4名、7名、4名)、法学部の中退を前提とするルートを法曹養成システムのメインストリームとして構想することには無理があるといえます。前述の中教審法科大学院等特別委員会での議論も、法科大学院に進学する法学部生については積極的に早期卒業を認めることとし、優秀な法曹志望者は「3+2」の計5 年間で大学での法曹養成教育を修了できるようにしようとするものです。国レベルでの議論がこの先どのように決着するのかまだ予断を許しませんが、国の方針がはっきりすれば、京都大学法学部でも迅速に対応したいと考えています。

 なお、これに関連して、平成30 年司法試験の結果をご報告申し上げますと、わが法科大学院からは128名(既修110名、未修18 名)の合格者を出しました。合格率では全国2位、合格者数では全国1位(史上初)という快挙でありました。

 第二に、京都大学大学院法学研究科では研究者を目指す修士課程学生のために奨学金制度を創設しました。法科大学院を経由して法学研究科博士後期課程に進学する学生については、国の予算措置に基づく経済的支援制度がわが法学研究科に既に存在していますが、法学部から法学研究科修士課程に進学する学生についてはそのような予算措置がなく、経済的支援制度もありませんでした。しかし、法学・政治学研究者の減少傾向は、法科大学院出身者であるかどうかにかかわらず生じており、このままではわが国の将来の法学・政治学の研究・教育を担う者が絶対的に不足することは明らかであることから、その傾向に少しでも歯止めをかけるべく、修士課程に経済的支援制度を新設したものです(平成31年度入学者から制度を適用)。わが法学部では数年前から寄附講義を導入し、寄附金による財源がある程度安定的に見込めるようになったことから、この財源を原資とすることを予定しています。

 第三に、京都大学法学部では、平成29年度から「ELCAS(エルキャス)法学部」と呼ばれる高校生向けの模擬授業の取組みを開始しました。これは、法学・政治学に関心のある高校生(1年生・2年生)20人程度を筆記試験とグループ討論により選抜して、わが法学部の教員による授業(約半年間、計8回)を体験してもらい、法学・政治学への関心をさらに深めてもらうとともに京都大学法学部入学に向けたモチベーションを高めてもらおうという取組みです。「ELCAS」はもともとは京大の理系学部が数年前から実施してきた取組みで、「ELCAS法学部」は文系学部では初めての試みとなります。京都大学法学部は、これまで、将来の進路志望がまだはっきりしない優秀な文系学生の受け皿となり、入学後の法学・政治学の学習や、学友・教員との触合いを通じて初めて自分の進路を見定め、それに向かって努力を始めるという、よくいえばじっくり型の学生も、数多く育ててきました。しかし、上述したような法曹養成期間の短縮化の流れ、さらには民間企業の採用活動の前倒し傾向の中では、将来の進路に向けた始動が遅いことは学生の不利に働くことも少なくありません。そのような中、高校時代から法学部卒業後の進路にも関心を持ち、一足先に将来の準備を考えている学友がクラスの中に1人でも2人でもいることは、じっくり型・のんびり型の学生へのよい刺激になってくれるのではないかと思います。ELCAS 法学部の参加者が京都大学の入試を突破して法学部に入学してくるのは早くて平成31 年4 月ですが、われわれとしては、この取組みを通じて志の高い志願者を発掘するとともに、彼らがわが法学部とその学生にいい意味での影響を与えてくれることを期待しているところです。

 京都大学法学研究科は、昨年度末に伊藤之雄先生(日本政治外交史)、山本豊先生(民法)、寺田浩明先生(東洋法史)、新川敏光先生(政治過程論)、酒巻匡先生(刑事訴訟法)、実務家教員の佐々木茂美先生(民事訴訟実務)をお送りするとともに、今年度より池田公博教授(刑事訴訟法、10月ご着任)、近藤正基教授(政治過程論)、小久保孝雄教授(民事訴訟実務、実務家教員)をお迎えしました。教員一同、京都大学法学研究科・法学部の研究教育に全力を注いでまいりますので、有信会会員の皆様におかれましては、これまでと同様、ご指導・ご助言を賜りますよう、お願い申し上げます。